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クリニシアン・消化器関連情報

他科医に聞きたいちょっとしたこと

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唐辛子などの香辛料の消化器に対する影響は?(2007年7月1日発行)

質問

塩辛い食品は、生活習慣病予防、癌予防のためには少なめに摂取するようにいわれているが、唐辛子などの香辛料については、多めに摂取すると消化器などによくない影響が生じる可能性はあるのでしょうか。例えば、キムチなどの香辛料のきいた食品を多く摂取する地域では、そうでない地域に比べて、特定の消化器疾患が有意に多く発生している等のことはあるのでしょうか。ご教示をお願いいたします。
(新潟県・精神科)

回答

静岡県立大学 食品栄養科学部教授 渡辺達夫

トウガラシの辛味成分

   トウガラシの辛味成分は、カプサイシンと、側鎖部分の構造の異なる類縁体からなり、カプサイシン類と呼ばれます。発痛物質や熱による痛みを伝える知覚神経の終末には、カプサイシン受容体TRPV1があり、化学物質や熱による痛みの最初の反応部位です。カプサイシンによる生理作用の大半はカプサイシン受容体を介したものです。

トウガラシ・カプサイシンと消化管

   トウガラシが消化管に与える影響としては、胃酸分泌、胃・十二指腸潰瘍、消化管運動について研究されています1)2)
   胃酸分泌については、ヒトで、8gもの大量のトウガラシを胃内投与したところ、胃酸分泌が高まったという報告と、低容量(鷹の爪で0.1g程度)のカプサイシンで胃酸分泌を抑えたという報告があります。これらのことから、胃酸分泌に関しては、極めて大量のトウガラシを摂取しなければ、分泌を抑制するものと考えられます。
   胃潰瘍についてはどうでしょうか。
   カプサイシンの大量投与によりカプサイシン感受性神経を破壊または一過性に機能損傷を引き起こさせると、実験的胃潰瘍が増悪することがSzolcsayaniらによって1970年代に示されて以来、多数の実験データが蓄積され、カプサイシンが胃粘膜の保護に大きな役割を果たしていることが明らかとなっています。すなわち、少量のカプサイシンでは、カプサイシン感受性神経の興奮を引き起こして、胃粘膜血流の増大などをもたらし、胃粘膜を保護するように作用します。逆に、大量のカプサイシンでは、カプサイシン感受性神経の機能が損なわれ、胃粘膜損傷が引き起こされると考えられます。ただし、トウガラシの摂取量と胃粘膜への影響に対してのさらなるデータが必要と考えます。
   ヒトの消化管の運動については、0.4㎎のカプサイシンを食道に投与した実験で、食道と小腸の通過時間が短くなったものの、胃からの移送は遅くなったという報告と、胃内に同程度のカプサイシンを投与したら、逆に胃内移送時間が短縮されたというデータがあり、はっきりとした結論はでていません。
   また、消化管痛がカプサイシン受容体の活性化により引き起こされている可能性が推察されています。

疫学研究

   トウガラシを大量に摂取するメキシコでの患者対照研究があります3)。トウガラシの摂取量と発がん率を比べたもので、大量摂取者(ハラペーニョという低~中程度にカプサイシンを含むトウガラシに換算して1日9~25本を食べる人)は、低摂取者(ハラペーニョで0~3本、鷹の爪で10gほど)に比べ、胃ガンのリスクは1.71倍でした。また、トウガラシの摂取量と、ピロリ菌感染の有無とが胃ガンのリスクに与える影響には相関が見られず、トウガラシがメキシコにおいて胃がん発症に対しての独立した危険因子であろうと推察しています。すなわち、極めて大量のトウガラシの摂取は胃ガンの危険因子と考えられます。また、韓国でも患者対照研究が行われ、ハクサイのキムチの摂取で胃ガンのリスクが下がり、カクテキ(大根のキムチ)やトンチミー(大根と大量の食塩水などから作るキムチ)の摂取で胃ガンのリスクが高まっていました4)。しかし、胃ガンのリスクに影響を与えた因子は、野菜や果物(リスクの低減)、食塩や硝酸化合物(リスクの増大)であると考察しています。

他の香辛料

   コショウの辛味成分ピペリンや、ショウガの辛味成分ジンゲロールなどは、その辛味度に応じてカプサイシン受容体を活性化することが知られています。そのため、消化管への作用もカプサイシンと同様である可能性があります。

まとめ

   トウガラシやカプサイシンの摂取は、低濃度であるならば胃の粘膜を保護し、高濃度になると胃粘膜損傷を引き起こす可能性があります。スパイスとして少量を用いるのでなく、トウガラシなどを大量に摂取するのは消化器によくないと考えます。

文献

1)O.M.E. Abdel-Salam et al. : Capsaicin and the stomach. A review of experimental and clinical data. J. Physiol (Paris), 91, 151~171(1997)
2)岩井和夫・渡辺達夫編:「トウガラシ 辛味の科学」幸書房、217~222、2000年
3)L. Lopez-Carrillo, et al. : Capsaicin consumption, Helicobacter pylori positivity and gastric cancer in Mexico. Int. J. Cancer, 106, 277~282(2003)
4)H.J. Kim, et al. : Dietary factors and gastric cancer in Korea : a case-control study. Int. J. Cancer, 97, 531~535(2002)

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