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他科医に聞きたいちょっとしたこと

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バレット食道、バレット腺癌について(2013年11月1日発行)

質問

バレット食道、バレット腺癌の病態、診断、治療について、文献を併せてご教示ください。
(青森県・内科)

回答

島根大学医学部 第二内科(消化器・肝臓・健診予防内科) 教授 木下芳一

   バレット食道とは、食道下部の粘膜が胃から連続性に円柱上皮に化生した状態を示している。このバレット食道の形成には、胃食道酸逆流、食道への胆汁酸の逆流、食道下端部の慢性炎症、逆流性食道炎に伴う粘膜損傷の存在などが関与していると考えられ、胃食道逆流症の合併症の一つであると認識されている。
   バレット食道の定義は、その臨床的重要性に早くから注目していた欧米の研究者が、内視鏡検査だけで正確に診断可能なサイズとして長さ3cm以上の食道内円柱上皮をバレット食道と判定していたことに始まる。その後、欧米では発癌リスクの高いバレット食道は腸上皮化生を有するものであることが重要視され、腸上皮化生の存在を加えてバレット食道と一般的に判定してきた。このため、欧米から報告されているバレット食道に関する臨床成績は、ほとんどが長さ3cm以上で腸上皮化生を有するバレット食道のものである1)。最近の欧米でのバレット食道からの発癌リスクに関する論文の平均的な値は、年間発癌リスク0.3%程度である2)。一方、日本からの研究を含む種々の研究から、腸上皮化生のないバレット食道や長さ3cm以下の短いshort segment Barrett's esophagus(SSBE)でも発癌リスクを有することが明らかになっているが、これらのバレット食道からの発癌リスクは、長さ3cm以上の腸上皮化生を有するバレット食道よりも低いことが明らかとなりつつある3)
   バレット食道の診断は、胃食道逆流症を疑う症状のある人に内視鏡検査を行うところから始まる。ただし、バレット食道を有していても自覚症状がない例のほうがむしろ多いため、検診の内視鏡検査においてもバレット食道の存在には注意をする必要がある。バレット食道は食道の粘膜に比べてサーモンピンクと呼ばれる赤っぽい色をしているため、その存在の確認は困難ではない。ただし短いものでは、上端の扁平上皮と円柱上皮の移行部は判定しやすいが下端部の食道・胃移行部の正確な判定は時に難しく、食道下端部の柵状血管の下端や胃体部の粘膜ヒダの上端をメルクマールに判定する。バレット食道の長さが0.5~1.0cmを超えると、バレット食道の存在診断に関する内視鏡医間の診断一致率が高くなる。全周性でない短いものは食道の右前側に多いため注意をする4)
   バレット食道の臨床的意義の大部分は、発癌リスクを有することである。そこでバレット食道を認めれば、その発癌リスクを評価することが重要となる。発癌リスクが高いバレット食道は長いもの、腸上皮化生を有するものであり、短いもの(SSBE)では発癌は右前側に多いことが分かっている(図15))。そこで、内視鏡検査中に右前側に注意をしながらバレット食道の表面形態診断や血管網の評価を行い、癌の可能性のある部位の生検を行うことになる。欧米では盲目的な多点生検を勧める論文も多いが、現実には盲目的多点生検が広く行われているわけではない。内視鏡的な特徴以外に、高齢者、男性、喫煙、肥満、胸やけ症状の存在などは発癌リスクを高めるとする報告があるため、患者の臨床的特徴にも注意をする必要がある。

図1:Barrett異型性病変の食道内周在性

(文献5より引用改変)

   バレット食道そのものに対しては積極的な治療は行われない。バレット腺癌は日本では現時点で全食道癌の3%程度であるため、専門的な施設で治療が行われるべきであり、専門施設への紹介を行う。私たちの施設では最近バレット腺癌が全食道癌の5%を超えるようになってきた(図2)。完全にコンセンサスがあるわけではないが、粘膜内のバレット腺癌であれば内視鏡的な切除や焼灼治療が可能であると考えられている。一方、バレット食道からの発癌抑制に関してはプロトンポンプ阻害薬(PPI)、アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、COX2 inhibitor、スタチンなどが検討されているが、臨床的有用性が明らかなものはまだない。

図2:食道癌患者数(島根大学医学部附属病院)

文献

1)Sikkema M, et al : Risk of esophageal adenocarcinoma and mortality in patients with Barrett's esophagus : a systematic review and meta-analysis. Clin Gastroenterol Heptaol, 8, 235-244 (2010)
2)Schouten LJ, et al : Total cancer incidence and overall mortality are not increased among patients with Barrett's esophagus. Clin Gastroenterol Heptaol, 9, 754-761 (2011)
3)Bhat S, et al : Risk of malignant progression in Barrett's esophagus patients : results from a large population-based study. J Natl Cancer Inst, 103, 1049-1057 (2011)
4)Okita K, et al : Barrett's esophagus in Japanese patients : its prevalence, form, and elongation. J Gastroenterol, 43, 928-934 (2008)
5)Moriyama N, et al : Localization of early-stage dysplastic Barrett's lesions in patients with short-segment Barrett's esophagus. Am J Gastroenterol, 101, 2666-2667 (2006)

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