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他科医に聞きたいちょっとしたこと

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腹部コンパートメント症候群(2013年11月1日発行)

質問

腹部コンパートメント症候群について、わかりやすく詳細に文献を併せてご教示ください。
(青森県・内科)

回答

日本医科大学大学院医学研究科 救急医学分野 准教授 松本 尚

   腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:ACS)とは、外傷外科、消化器外科の領域において留意しなければならない重要な術後合併症の一つで、腹腔内圧(intra-abdominal pressure:IAP)の急激な上昇によって生ずるいくつかの病態の総称です1)2)3)
   重症の腹部外傷や腹部大動脈瘤破裂、汎発性腹膜炎などの周術期には、出血傾向や炎症の波及によって腹腔内や後腹膜への液体貯留が起こります。また、出血性ショックや敗血症性ショックに対応するための術前、術中の大量輸液により、腸管と腸間膜には著しい浮腫を生じます。これらの結果として、腹腔内容積は極端に大きくなりIAPの上昇をもたらします。実験によれば、IAPの上昇によって副腎を除く腹腔内臓器の血流は著しく低下すると言われています。臨床的には、下大静脈が圧迫され静脈還流量が減少するために心拍出量が低下し、これに伴って尿量も減少します。腹部は膨満するので横隔膜が挙上し、気道内圧が上昇するとともに換気量は低下します。IAPの上昇によって起こるこのような一連の呼吸・循環動態の変化がACSです。
   IAPは膀胱内圧とほぼ相関するので、ベッドサイドで容易にモニターできます。膀胱内に50~100cc程度の水が入っていれば、膀胱壁を介して腹腔内圧を感知できるからです。尿道留置バルーンカテーテルを使用して測定される膀胱内圧が、12mmHg以上であれば腹腔内圧が上昇していると判断され、20mmHg以上であれば臨床症状がなくてもACSと診断されます4)
   IAPの上昇は再開腹を行うことで容易に減圧できます。減圧直後から気道内圧は低下し、高炭酸ガス血症の改善、心拍出量の増加による血圧の上昇と尿量の回復などが得られます。再開腹による減圧でACSの病態は劇的に改善されるため、ACSと診断した際には減圧術の決断を躊躇してはいけません。
   問題となるのは再開腹した後の、open abdominal managementといわれる腹壁創の管理です。かつては高カロリー輸液用の輸液バッグを用いて、皮膚に連続縫合するsilo closureがよく行われていましたが、最近ではvacuum-assisted wound closureを行うことが多くなっています5)(図1)。この方法は、腹腔内と外界の確実な遮断と浸出液の持続吸引が同時に可能な点で、silo closureより優れています。腹壁の閉鎖は循環動態が安定し、腸管の浮腫が消退する時期を見計らって行います。一度に閉腹できなければ、腹腔内洗浄と仮閉腹を行いながら1~2週間ほどかけて徐々に閉腹していきます。

図1:vacuum-assisted wound closure

腹腔内にガーゼタオルを挿入し吸引チューブを留置したところ。
この上にタオルを載せてドレープで覆う。

   ACSは、ショックを伴う重篤な循環動態が発症の背景であること、開腹手術後の合併症であることから、救急医療・集中治療の領域以外で遭遇する機会は少ないと思われます。しかしながら、その臨床病態は以前より経験的に知られていたものと思われます。近年、ダメージコントロール手術の概念が普及したこと、仮閉腹の状態で全身管理が可能になったことなどの理由で治療が可能になってきたために注目されるようになりましたが、その意味では「古くて新しい病態」と言えるかもしれません。

文献

1)Whelan JF, et al : Abdominal compartment syndrome, Open abdomen, Enterocutanenous fistulae. Peitzman AB, et al, eds, The Trauma Manual : Trauma and Acute Care Surgery, 4th ed. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 529-534 (2013)
2)Schein M, Ivatury R : Intra-abdominal hypertension and the abdominal compartment syndrome. British J Surg, 85, 1027-1028 (1998)
3)Cheatham ML, et al : Results from the International Conference of Experts on Intra-abdominal Hypertension and Abdominal Compartment Syndrome. II. Recommendations. Intensive Care Med, 33, 951-962 (2007)
4)Balogh Z, et al : Secondary abdominal compartment syndrome : a potential threat for all trauma clinicians. Injury, 38, 272-279 (2007)
5)Kirkpatrick AW, et al : Intra-abdominal hypertension and the abdominal compartment syndrome : updated consensus definitions and clinical practice guidelines from the World Society of the Abdominal Compartment Syndrome. Intensive Care Med, 39, 1190-1206 (2013)

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