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お役立ち情報

消化器領域の治療指針とパス

掲載記事は発行時(2005年)の内容です。

I  治療指針とパス

序説 1.早期胃癌内視鏡治療におけるESDの位置付け

虎の門病院 消化器内科部長・内視鏡部部長 矢作直久

内視鏡的治療の変遷

   早期胃癌に対する内視鏡的治療は、1960年代にポリペクトミーの開発と生検への高周波電流の応用がなされたことに端を発する。その後、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)としてstrip biopsyに代表される2チャンネル法や、EMRCに代表される吸引法が開発された。これらの方法は比較的簡便で、安全な手法であり、小型の早期胃癌に対して極めて優れた治療成績を残している。
   しかしこれらの手技は、一括で切除できるサイズに制限があり、狙った範囲がとり切れない可能性や、標本に挫滅を生じたり亀裂が入るなどの問題点が指摘されてきた。また屈曲の強い部位などでは、技術的に実施困難な場合もあった。
   一方、狙った範囲をより確実に切除する方法として、病変の周囲を切開してからスネアをかけて切除するERHSE法があったが、手技がやや煩雑であることや、ニードルナイフを使用するため、出血や穿孔のリスクが高いこと、さらにスネアをかける方法であるため、切除できるサイズに制限があるという問題点があった。

大型病変も一括切除可能なESD

   これらの手技の問題点を解決するために考案されたのが、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection:ESD)である。
   ESDの最大の利点は、大型病変、潰瘍瘢痕を伴う病変、切除困難部位に存在する病変などもほぼ確実に一括切除可能な点である。切除する大きさ、形を自由に決定することができるという、これまでの手法にない大きな特徴を有している(表1)。
   ESDの手技が可能になった大きな要因の1つとして、さまざまな処置具の開発が進んだことが挙げられる。従来から使用されているニードルナイフに加え、現在、フレックスナイフ、ITナイフ、ITナイフ2、フックナイフ、フラッシュナイフ、TTナイフ、ムコゼクトーム、スプラッシュナイフ、Bナイフ、デュアルナイフ等が市販されている。主なデバイスの特徴は表2に示す。

表1:EMR・ESDの手技別長所・短所

ポリペクトミーを発展させた方法
長所 短所
  • 簡便である
  • 偶発症(出血・穿孔)が少ない
  • 切除困難部位が存在する
  • 一度に切除できる大きさに制限がある
  • 潰瘍所見を有する病変は切除困難である
吸引を用いた方法
  • 簡便である
  • ポリペクトミーを発展させた方法より切除困難部位が少ない
  • 一度に切除できる大きさに制限がある
  • 潰瘍所見を有する病変は切除困難である
  • 狙った部位からずれてしまう場合がある
切開を併用した方法
  • 切除サイズや切除部位の制限が少ない
  • 手技が複雑である
  • 他法に比べ偶発症の頻度が高い

表2:主なデバイスの特徴

ニードルナイフ

   従来より内視鏡下での切開用処置具として使用されてきた。鋭い先端で切れ味が良く、方向性にとらわれずに切開が可能であるが、その一方で出血や穿孔などのリスクも高くなる。より高い隆起を長時間形成することが可能なヒアルロン酸ナトリウム溶液と先端細径透明フードを併用し、より安全・確実に使用する方法が推奨されている。

フレックスナイフ

   ナイフ先端が鈍で長さが調節でき、シースの先端にストッパーがついている。そのためストッパーが見える状態で使用している限り、不用意にナイフが深く入り込むことがなく安全性が高いのが特徴。柔軟で操作性も良い。先端の長さが調節できるため、マーキングから辺縁切開、粘膜下層の剥離まで1本でこなせるが、腰がないため、硬い組織では切れにくい場合がある。

ITナイフ

   穿孔を防ぐ目的でニードルナイフにセラミックチップをつけたもの。深部組織への侵襲を抑えて粘膜切開が可能。先端が切れないため安全である反面、特に横方向への切開には習熟を要する。熟練した術者になると短時間で大型の病変が切除可能。

フックナイフ

   より安全性を増すために、ニードルナイフの先端を1mm分だけ垂直に曲げ、組織を引っ掛けて切れるように工夫したもの。手前に引きながら切るため初心者でも比較的安心して使用できる。切開のみならず、剥離や止血にも使える。また瘢痕部や屈曲部などの切除困難部位でも安全性が高く、さらに内視鏡の操作性があまり良くない場所でも正確な切除が可能であるが、フックの部分で剥離する場合、一度に少しの組織しか切れない。

ITナイフ2

   ITナイフのセラミックチップの裏側に、3方向のショートブレードを付けたもの。このショートブレードにより、横方向への切開やナイフが立った状態での切開も可能となり、格段に操作性が向上した。しかし切開性能が上がったため、ITナイフと同様に壁に押し付けるようにして操作すると、穿孔する危険性が高くなるため注意が必要である。

TTナイフ

   ニードルナイフの先端に、約1mmの突起を持つ三角形の金属チップを付けたもの。この突起の部分で、フックナイフと同様に組織を引っ掛けて処置を行うが、フックナイフとは異なり、方向を調節する必要がなく操作が容易である。総ての処置をこのナイフで行うことが可能であるが、基本的に組織を引っ掛けて切るため、断続的な切開と剥離にある。また先端の通電部分がやや大きくなるため、組織の凝固幅が他のナイフより若干大きくなる。

デュアルナイフ

   フレックスナイフの特徴を生かしつつ、より使い易くするために、短いニードル状のナイフの先端に半月状の小さなディスクを付けたもの。ナイフを収納した状態で0.3mmのディスク部のみが残るため、そのままマーキングや止血ができ、ナイフを出した状態で切開や剥離を行う。また処置具を出した状態での液体の吸引性を保つため、ナイフの先端以外は細めに設計してある。総ての処置をこのナイフ1本で行うことが可能であるが、ITナイフやITナイフ2に比べて、一度に切れる組織量が少ない。

(画像はオリンパスメディカルシステムズ提供)

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