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お役立ち情報

消化器領域の治療指針とパス

掲載記事は発行時(2005年)の内容です。

III  Q&A 知っておきたいクリニカルパス活用術

Q&A 知っておきたいクリニカルパス活用術

NTT東日本関東病院 副院長・外科部長 小西敏郎

1 クリニカルパスを導入するまで

Q1 クリニカルパスの役割は?

=答え=

   「経済効率」と「医療の質の向上」の両面を達成できるツールとして注目されているのがクリニカルパスです。具体的には、(1)患者さん中心の医療の展開、(2)チーム医療の推進、(3)セフティマネジメントなど、医療の質の面からパスをとらえて導入を進めることが得策と考えます。
   これからの病院は今までの医師を頂点とするピラミッド型の医療体制ではなく、患者さんを中心にして医師、看護師、コメディカルなど医療スタッフ全員が協力した医療体制が求められます(図1)。パスはこのような医療体制に応じることのできるツールで、作成過程で多職種のスタッフが協議しながら作成することから、スタッフ全員が相互の業務内容を理解した上で、平等の立場で議論ができます。

クリニカルパスの効果
  • 医療の標準化と質の向上(高いレベルでの医療の標準化、EBM、ガイドラインの採用)
  • 患者中心の医療の展開
  • 患者満足度の向上
  • 患者自己管理意識の向上
  • インフォームドコンセントの充実(患者用パスによる治療計画の詳細な情報開示)
  • 医療プロセスの効率化(合理化、省力化)
  • 術前術後管理のシステム化
  • チーム医療の推進
  • 医療スタッフのコミュニケーションの向上
  • セフティマネジメント(医療過誤の回避)
  • 在院期間の短縮、医療コスト・資源の節約
  • 医師をはじめとする医療スタッフの意識の変化(現状の問題点の認識と解決への努力)

図1:医療体制の構造改革

図1:医療体制の構造改革
Q2 クリニカルパス導入のメリットは?

=答え=

   パスを作る際は、長年慣例として行われてきた医療行為を1つひとつ見直すことで不必要な業務が省かれるため、医療の効率化が図れ、医師はより治療に専念できます。また、パスを使ってインフォームドコンセントのための説明を行うことで理解も深まり、患者さんとのコミュニケーションの機会が増し、信頼関係を構築することができます。

クリニカルパスの有用性
医療スタッフ
  • 計画性のある標準的な医療が提供できる
  • 医師や看護師の業務軽減につながる(指示の簡略化、記録システムの工夫)
  • うっかりミスが減少し、医師や看護師が代わっても、同様の医療が継続できる
  • 医師、看護師、その他医療従事者の役割分担が明らかとなる
  • 標準からの逸脱を発見しやすく、早期に対応できる
  • パスの作成、運営により医療従事者間の協調性が高まる
    (クリニカルパスの作成だけでも、非常に有意義である)
  • 入院期間が短縮する、治療費が削減する
  • 新人や学生の教育に利用可能である
  • 種々のデータを整理しやすい
患者
  • 入院中の治療予定がわかり、対応の心構えができる(インフォームドコンセント)
  • 初めての入院でも不安が和らぐ
  • 患者の自己管理能力が向上する
  • 医療スタッフとのコミュニケーションが増し、医師や看護師などとの信頼関係が向上する
  • 退院の予定が立てられる、入院費を事前に推測できる
Q3 消化器系においてパスに適した疾患は?

=答え=

   パスの導入にはできるだけバリアンスが少なく、症例の多い疾患が作成しやすいでしょう。その病院で症例の多い疾患でなければ、よいパスを作っても使う機会がなく無駄になってしまいます。
   内科よりも外科的な処置、検査が適しているといわれていますが、最近はほとんどすべての診療科で広く使われ、効果を上げています。

消化器内科で導入しやすいパス
EMR、ESD、ポリぺクトミー、PEG、肝生検、TACE、RFA など
Q4 パス導入に対するスタッフ(主として医師)の同意・協力を得るには?

=答え=

   まずはパスに対する誤解を解き、意識改革を行うことが重要となります。
   パス導入に反対または無関心な医師の最大の理由は「忙しくてパスを作っている時間がない」ということです。確かに新たにパスを作り導入するにはかなりの時間と労力が必要ですが、いったん軌道に乗ればそれに見合うだけの効果が得られるということを知ってもらうことです。
   また、治療内容の画一化を懸念する医師もいますが、これはまったくの誤解です。パスはあくまで常に正常に経過する場合の標準的な治療サンプルであり、目標にすぎません。バリアンスを減らそうとしてパスに縛られる必要はまったくありませんし、むしろ患者の状態に応じてパスの内容を変えるべきです。そして必ず発生するバリアンス例に対する治療こそが医師の“さじ加減”が重要で個々の医師の“腕のみせどころ”になるのです。
   最初からスタッフ全員の合意や参加が得られなくても、協力的な医師を中心にまずは始めてみることです。

パスに対する誤解(主として医師)と誤解に対する意識改革
  • 工業過程のクリティカルパスを人間の治療に導入すべきではない。
  • マニュアルがあれば、クリニカルパスは不要である。
通常のマニュアルとは違い、パスは診療実績に基づいて多職種のスタッフが共同で作成し、スタッフ間で同意されて1つに標準化されたものである。
  • 治療法の固定化が心配。
パスはアウトカムを評価し、バリアンスを分析することで、自律的に進化させていくものである。よって治療法が固定化する心配はない。
  • 個々の患者でそれぞれに合った治療をすべきなので、画一的なプログラムで治療すべきではない。
  • クリニカルパスがあると、考えない医師になる。
パスはあくまで常に正常に経過する場合の標準的な治療サンプルであり、目標にすぎない。個々の患者の状態に合わせて医療内容も変更すべきであり、その際のバリアンスの対応こそが医師の腕のみせどころである。
  • 管理されずに自分独自の方法でやりたい。
  • 看護師に指示されたくない。
患者中心の医療体制を整えるには医療組織をフラットにする必要がある。
  • 入院期間が短くなるので、患者の満足度は向上しない。
多くの患者は無駄な入院期間を望まず、快復後は速やかな職場復帰を望んでいる。
Q5 誰が主導でパスを導入する?

=答え=

   パスに熱心な医師や看護師が独自でパスを作って使用を始め、そこからほかの診療科に広がり、部長や院長へとボトムアップするケースと、院長の強い指導力で、ある程度強制的にトップダウンするケースがあります。パスの質を重視するならボトムアップ、速さならトップダウンです。ただし、パスの導入は全職員参加で行うべきであり、まずはクリニカルパス委員会もしくはプロジェクトチームを設置し、医師を中心とした多部門の協力体制を整える必要があります(図2)。

図2:クリニカルパス作成のための組織図

図2:クリニカルパス作成のための組織図
Q6 クリニカルパス委員会の構成に必要なスタッフは?

=答え=

   院長もしくはそれに代わる病院のトップが働きかけてクリニカルパス委員会を立ち上げます。チーム医療を推進するためには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、事務職員、ケースワーカーなど多くの職種が参加して、病院全体のパスに対する意識を高めるようにします。

パス委員会の組織や人数
   病院の規模によっても異なりますが、普通6、7人で月1回程度の運営会議を設けます。いくつかの部会に分け、役割を分担するやり方が一般的です。
   パス導入には導入がスムーズな外科系の医師が積極的な場合が多いようですが、内科や検査部門の医師にも広く参加を呼びかけて、病院全体の取り組みにしていきます。パス導入に積極的でない医師も強引にメンバーに加えて働きかけるのも一案です。
   組織は流動的にしパス導入時と導入後では、運営しやすいよう変えていくようにします。また、構成メンバーも固定せず、定期的に入れ替えます。
Eisai Group
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